マーケターのスキルマップの作り方|「何ができれば一人前か」を職歴や資格ではなく行動で決める
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マーケのメンバーを採用したり配置したりしても、「何ができれば一人前か」の基準がないため、任せてよいかの判断がその場の印象になることがあります。必要なのは、職歴や資格ではなく、仕事の中での行動で力を測る基準です。
この記事では、役割ごとに一人前の線を引くスキルマップの作り方を、記入例とあわせて解説します。
- マーケターのスキルを「5つの領域 × 4段階」で書き出すスキルマップの形
- 職歴・研修・資格だけで力を判断してはいけない理由と、代わりに確かめること
- スキルマップを作り、本人と話し、見直すまでの5つの手順
育成計画の全体の進め方は、マーケティング人材育成は『任せる順番』から|経験者が自分1人のチームで、1年で実務を手放す計画 で解説しています。
結論:スキルマップは「行動」で書き、一人前の線を役割ごとに引く
スキルマップは、縦に「必要なスキル」、横に「レベル」を並べた表です。マーケターのスキルマップで大切なのは、ツール名や資格名ではなく、「何を説明できるか」「どう判断し、どう動けるか」という行動で項目を書くことです。
代表的な項目を挙げると、次のようになります。自社の商材や役割に合わせて、足したり削ったりして使ってください。
| 領域 | スキル項目の例(行動で書く) |
|---|---|
| 顧客理解・企画 | 営業への同行や顧客の声から、顧客が抱える課題を言葉にできる |
| 顧客理解・企画 | 顧客が情報を集め、比べ、社内で決めるまでの流れを整理できる |
| 顧客理解・企画 | 狙う顧客(業種・規模・役職など)を、根拠をもって絞り込める |
| 顧客理解・企画 | 競合と比べた自社の強みを、顧客が使う言葉で説明できる |
| 施策の実行 | 施策の目的と成果を測る指標を決め、それに合う手段を選べる |
| 施策の実行 | 外注先に目的と条件を伝え、期待どおりの成果物を受け取れる |
| 施策の実行 | 公開前に、問い合わせなどの計測が正しく動くかを確かめられる |
| 分析・判断 | 施策の前に仮説を立て、結果と比べて検証できる |
| 分析・判断 | 根拠を添えて、客観的に意見を言える |
| 分析・判断 | 問題が起きたとき、対処案を持って相談できる |
| 改善・学習 | 作業の手間を減らす方法を考え、試せる |
| 改善・学習 | 成功・失敗の事例を集め、定期的に更新している |
| 改善・学習 | 社内で当たり前になっているやり方を疑い、見直しを提案できる |
| 仕事の進め方 | 営業や経理など他部署と、目的と条件をすり合わせて調整できる |
| 仕事の進め方 | 期限に影響する作業を把握し、遅れそうなときは早めに相談できる |
「仕事の進め方」は、マーケの専門スキルではありません。ただ、専任者が少ない部署では、営業や経理と調整できるかどうかで、施策が進むかどうかが決まります。そのため、スキルマップに入れておきます。
レベルは、次の4段階で決めます。
| レベル | 状態 |
|---|---|
| 1 | 指示と手順書があればできる |
| 2 | 決まった範囲の仕事を、一人でできる |
| 3 | 理由を説明でき、根拠をもって提案できる。問題が起きたら対処案を持って相談できる(一人前) |
| 4 | 他の人に教えられ、やり方そのものを見直せる |
レベル2と3の間に、一人前かどうかの線があります。作業ができるだけでなく、なぜそうするのかを説明し、根拠をもって次の手を出せるか。この差を見分けられるように作ることが、スキルマップの目的です。
全体の流れ
スキルマップは、次の5つの手順で作ります。
- 役割を決める
- 4つの領域で、スキル項目を洗い出す
- 項目を「行動」の言葉に書き直す
- 役割ごとに、一人前のレベルを決める
- 本人と上司で付け、差を話し、3か月ごとに見直す
スキルマップを作る5つの手順
ステップ1:役割を決める
最初に、マーケの仕事をいくつの役割に分けるかを決めます。いまいるメンバーに合わせるのではなく、必要な仕事から役割を決めるのが順番です。人に合わせて役割を作ると、その人が抜けたときに何が足りなくなるかが見えません。
2〜5名くらいのマーケ部署なら、次の3つに分けると整理しやすくなります。
1人で2つ以上の役割を持つ場合も、役割は分けたままにします。そのうえで、「この人は施策運用担当とコンテンツ担当を兼ねる」と割り当てます。
ステップ2:4つの領域で、スキル項目を洗い出す
次に、スキル項目を洗い出します。思いつくままに並べると、ツールの名前ばかりになりがちです。そこで、次の5つの領域に分けて考えます。
| 領域 | 見ること |
|---|---|
| 顧客理解・企画 | 自社の目線ではなく、顧客の立場で考えられるか |
| 施策の実行 | 目的に合った手段を選び、外注先も含めて形にできるか |
| 分析・判断 | 仮説と根拠をもって判断し、問題に対処できるか |
| 改善・学習 | やり方を見直し、知識を更新し続けられるか |
| 仕事の進め方 | 他部署と調整し、期限を守って進められるか |
項目の数は、全体で15くらいを目安にします。多すぎると、付けるのに時間がかかり、誰も更新しなくなるためです。1人分を短い時間で付けられる量に絞ることが、使い続けるための条件になります。
心理学者ショーン・エイカーは、著書『幸福優位7つの法則』で、行動を始めるまでの手間が20秒違うだけで、続くかどうかが変わると紹介しています。
エイカー自身、クローゼットからギターを出す20秒が面倒で練習が続かず、リビングにギタースタンドを置いたら続くようになったそうです。スキルマップも同じで、付ける手間が小さいほど、見直しが続きます。
とくに「顧客理解・企画」は外さないでください。顧客が何に困っていて、どう情報を集め、どう決めるのか。これを顧客の立場で考えられるかどうかは、どの役割にも共通して求められる力です。
ステップ3:項目を「行動」の言葉に書き直す
洗い出した項目を、観察できる行動の言葉に書き直します。ここが、スキルマップが使えるものになるかどうかの分かれ目です。
次の表は、書き直し方の例です。
| 書き直す前 | 書き直したあと |
|---|---|
| アクセス解析ができる | 問い合わせが減ったとき、原因の候補を挙げ、確かめる順番を示せる |
| 広告運用ができる | 広告の成果が落ちたとき、対処案を持って相談できる |
| Webサイトが作れる | ページの構成を、なぜその順番にしたのか説明できる |
| 進行管理ができる | 期限に影響する作業を把握し、遅れそうなときは早めに相談できる |
| 企画力がある | 企画の理由を、顧客の課題と数字の両方で説明できる |
書き直すときの基準は、上司が見て「できている・できていない」を判断できるかどうかです。「使える」「理解している」のままだと、人によって判断が分かれます。
ステップ4:役割ごとに、一人前のレベルを決める
項目と役割がそろったら、役割ごとに「一人前ならレベルいくつか」を決めます。すべての項目をレベル3にする必要はありません。役割によって濃淡をつけます。
| スキル項目 | 施策運用担当 | コンテンツ担当 | 分析・企画担当 |
|---|---|---|---|
| 顧客が情報を集め、比べ、社内で決めるまでの流れを整理できる | 2 | 3 | 3 |
| 公開前に、問い合わせなどの計測が正しく動くかを確かめられる | 3 | 2 | 3 |
| 施策の前に仮説を立て、結果と比べて検証できる | 2 | 2 | 3 |
ただし、次の2つはどの役割でもレベル3を求めます。
- 根拠を添えて、客観的に意見を言える
- 問題が起きたとき、対処案を持って相談できる
「私はこれがいいと思ったので」という説明では、上司も経営陣も判断できません。何を根拠にそう考えたのかを、数字や顧客の反応で示せることが一人前の条件です。問題が起きたときも同じで、「エラーが出ました」という報告で止まらず、「原因はこれが考えられ、対処案はAとBです」まで出せれば、報告の時間を飛ばして、すぐに相談へ進めます。
ステップ5:本人と上司で付け、差を話し、定期的に見直す
スキルマップができたら、本人と上司がそれぞれ別にレベルを付けます。点数そのものより、本人と上司で付けたレベルに差がある項目が大切です。差がある項目について、「どんな場面を見てそう判断したか」を話すと、次の見直しまでに何をすればよいかが具体的になります。
仕事に必要な能力を職種ごとに整理した、国の基準です。営業・マーケティングの職務も含まれ、レベルは4段階に分かれています。
評価シートでは本人、上司の順に○△×で評価し、評価が違う項目は上司が具体例を示して理由を伝えます。項目を自社に合わせて変えて使えるので、一から考えるのが難しい場合の参考になります。
見直しの時期は、会社の評価面談や育成計画の区切りに合わせて、定期的に行います。レベルを付け直すだけでなく、項目そのものも見直します。マーケの手法やツールは変わりやすく、以前は正しかったやり方が合わなくなることもあるためです。見つけた定石も、定期的に疑う前提で運用します。
レベル3に届くまでには、時間がかかります。1回の見直しで上がらなくても、本人と上司の差が縮まっているかを見ながら、根気よく続けてください。
スキルマップ作成でつまずきやすい点
職歴・研修・資格で、レベルを決めてしまう
採用や配置のときにとくに多いのが、経歴の言葉だけでレベルを決めてしまう失敗です。同じ経歴でも、実際にできることは人によって大きく違います。
| 経歴 | 見落としやすいこと | 確かめること |
|---|---|---|
| Webプロデューサー・ディレクターの経験がある | 進め方が案件ごとに大きく違う。ツールや専門用語に慣れていない人や、進行表を使わずに都度の連絡で進めてきた人もいる | 実際に使っていた進行表を見せてもらう。最近の業界の変化を1つ説明してもらう |
| Web制作のスクールや公的職業訓練を修了している | 学ぶのは主に作り方で、なぜその構成にするのかを考える機会は少ないことがある | 作ったページの構成の理由を説明してもらう |
| Googleアナリティクス認定資格や、Google 広告・LINEヤフー広告の認定資格を持っている | 試験で確かめるのは、主に機能や設定の知識。実際の数字から改善策を組み立てた経験とは別 | 実際の数字を見せ、改善案を1つ出しても |
たとえば、決まった取引先から継続して依頼を受ける仕事が中心だった場合、進め方がその取引先に合わせて固まっていることがあります。職種の名前が同じでも、経験してきた仕事の中身は違うと考えておくほうが安全です。
経歴は、「どの項目から確かめるか」を決める手がかりとして使います。レベルは、実際の行動を見てから付けてください。
項目を増やしすぎて、更新されなくなる
「あれも必要、これも必要」と項目を足していくと、1人分を付けるのに長い時間がかかる表になります。そうなると、定期的な見直しは続きません。15くらいを目安に、増えてきたら似た項目をまとめるか、役割に関係の薄い項目を外します。
作ったまま、見直さない
一度作ったスキルマップを何年も使い続けると、いまの仕事に合わない項目が残ります。その結果、レベルは高いのに成果が出ない、というずれが生まれます。項目の見直しは、レベルの付け直しとセットで行ってください。
スキルマップの記入例
本人と上司が付けるシートは、次の形にします。数値と内容は説明用の架空の例です。
施策運用担当・入社2年目のメンバーの例(抜粋)
| 領域 | スキル項目 | 一人前の線 | 本人 | 上司 | 次の見直しまでにやること |
|---|---|---|---|---|---|
| 顧客理解・企画 | 顧客が情報を集め、比べ、社内で決めるまでの流れを整理できる | 2 | 2 | 1 | 営業に同行し、受注した顧客が比べた会社と決め手を聞く |
| 施策の実行 | 公開前に、問い合わせなどの計測が正しく動くかを確かめられる | 3 | 3 | 3 | ― |
| 分析・判断 | 根拠を添えて、客観的に意見を言える | 3 | 3 | 2 | 提案のたびに、根拠となる数字か顧客の声を1つ添える |
| 分析・判断 | 問題が起きたとき、対処案を持って相談できる | 3 | 2 | 2 | 異常があったときは、対処案を2つ持って相談する |
| 改善・学習 | 作業の手間を減らす方法を考え、試せる | 3 | 2 | 3 | 月次の集計作業を減らす方法を1つ試す |
| 仕事の進め方 | 期限に影響する作業を把握し、遅れそうなときは早めに相談できる | 3 | 3 | 2 | 次の施策で、期限に影響する作業を最初に上司と確認する |
本人と上司の差がある「顧客の検討の流れ」「客観的な意見」「期限の管理」の3項目が、次の面談で話すテーマになります。反対に、「作業の手間を減らす」は上司のほうが高く付けています。本人が気づいていない強みとして伝えると、次の行動につながります。
人事や採用担当に伝えるときの一文
スキルマップは、評価や採用で人事と話すときにも使えます。
- 評価の基準として:「マーケのメンバーは、経歴ではなく、根拠をもって提案できるか、問題に対処案を出せるかといった15の行動で評価しています。一人前の線はレベル3です。」
- 募集要項に書くとき:「経験年数や資格よりも、施策の結果を根拠をもって説明し、次の打ち手を提案できる方を求めています。」
まとめ
- マーケターのスキルマップは、ツール名や資格名ではなく、行動の言葉で項目を書きます。
- 領域は、顧客理解・企画、施策の実行、分析・判断、改善・学習、仕事の進め方の5つに分け、全体で15くらいに収めます。
- 一人前の線はレベル3です。どの役割でも、「根拠を添えて客観的に意見を言える」「対処案を持って相談できる」はレベル3を求めます。
- 職歴・研修・資格は、確かめる項目の手がかりにとどめ、レベルは実際の行動を見て付けます。
- 本人と上司の差を話し、評価や育成の区切りに合わせて、項目ごと定期的に見直します。育成には時間がかかる前提で、根気よく続けます。
よくある質問
Q1.マーケターに必要なスキルは、何から身につけさせればよいですか?
A1.まずは「根拠を添えて客観的に意見を言える」「問題が起きたとき、対処案を持って相談できる」の2つです。この2つはどの役割でも一人前の条件になり、ツールの操作よりも身につくまでに時間がかかります。ツールの操作は、担当する施策が決まってから覚えれば間に合います。
Q2.スキルマップのレベルは、何段階にすればよいですか?
A2.4段階をおすすめします。3段階だと「一人でできる」と「根拠をもって提案できる」の差が見えにくく、5段階以上だと付ける人によって判断がぶれやすくなるためです。4段階なら、レベル2と3の間に一人前の線を引けます。
Q3.Webディレクターの経験者なら、マーケの仕事も任せられますか?
A3.経験だけでは判断できません。ツールの操作や専門用語、WBSでの進行管理に慣れていない人もいるためです。実際に使っていた進行表を見せてもらう、作ったものの理由を説明してもらうなど、行動で確かめてからレベルを付けてください。
Q4.GA4や広告の資格は、スキルマップでどう扱えばよいですか?
A4.資格があることは、レベルの根拠にしません。資格で身につくのは主に設定や計測の知識で、数字を見て改善案を出せるかは別の力だからです。実際の数字を見せて改善案を出してもらい、その内容でレベルを付けます。
Q5.スキルマップは、どのくらいの頻度で見直せばよいですか?
A5.3か月ごとが目安です。レベルを付け直すだけでなく、項目がいまの仕事に合っているかも見直してください。マーケの手法やツールは変わりやすいので、一度作った項目も定期的に疑う前提で運用します。
