B2Bのポジショニング|KBFで競合と比べ、ポジショニングマップで勝てる位置を決める
MKTGAXConsultant公開日: / 更新日:
目次
「うちの強みは機能の豊富さです」。そう言っている会社の商談が、価格で負け続けることがあります。強みは自社が決めるものではなく、顧客が何で選ぶかで決まるからです。
セグメントを区切り、市場規模を数えて狙う候補を決めても、位置取りを製品の強みから決めると、顧客の選ぶ理由とずれます。ポジショニングは、狙う集団が競合と自社をどう比べるかを、顧客の判断基準に沿って設計する工程です。
この記事は、B2Bマーケティングのポジショニングを、定石(KBF、ポジショニングマップ、ポジショニングステートメント)に沿って、セグメンテーション・ターゲティングの記事と同じ題材(東京都のIT系業種、従業員50人以上)で仕上げます。STP(セグメンテーション → ターゲティング → ポジショニング)の最後の工程です。各節末尾の「ツールで確かめてみる」で、顧客側の数字をTAM/SAMダッシュボード([URL:公開時に確定])で確かめられます。競合側の情報は自社の受注・失注データと競合調査で置きます。
この記事で身につくスキル
- 顧客の購買決定要因(KBF)を、受注・失注の理由と顧客企業の構造から出せるようになる
- KBFに重みをつけて自社と競合を採点し、ポジショニングマップで勝てる位置を選べるようになる
- セグメントごとのポジショニングステートメントを書き、STPを一つの手順として閉じられるようになる
この記事の結論
- B2Bのポジショニングは顧客の「知覚」より「判断基準」で決まる。判断基準=KBFを先に出す
- KBFは自社の思い込みではなく、受注・失注の理由と、顧客企業の費用構造(何にお金を使っているか)から出す
- ポジショニングマップの軸は「顧客にとって重要で、かつ競合と差がつく」KBFを2つ選ぶ。重要でも差がつかない軸は使わない
- セグメントが違えば位置取りも違う。A案(+広告業)とB案(+情報サービス業)で別に書き、大口はアカウント別に書く
- 位置取りは1文にする(誰に、何が、なぜ競合より良いか)。受注データが四半期分たまったら、KBFの重みから見直す
ポジショニングとは
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| ポジショニング | 狙う顧客の頭の中で、競合と比べて自社をどこに置くかを決めること。STPの3番目の工程 |
| KBF(Key Buying Factors) | 顧客が製品やサービスを選ぶときに重視する要因。購買決定要因。価格、機能の適合、導入の容易さ、既存システムとの連携、サポート、実績など |
| ポジショニングマップ | 2つの軸で市場を平面にし、自社と競合の位置を置いた図。知覚マップとも呼ぶ |
| ポジショニングステートメント | 位置取りを1文にしたもの。「(誰)にとって、(自社)は、(何)である。なぜなら(差別化点)」 |
| KSF(Key Success Factors) | その市場で勝つために必要な条件。KBFが顧客側、KSFが供給側の言葉 |
1. B2Bのポジショニングは「知覚」より「判断基準」で決まる
ポジショニングの定石は、顧客の知覚を2軸で描き、空いている場所を探すことです。消費財ならこれで足ります。B2Bでは2点が違います。買い手が1人ではなく、現場・情報システム・決裁者と複数いること。そして選ぶ理由が、好みではなく「稟議を通せる根拠」であることです。
だからB2Bでは、知覚の前に判断基準(KBF)を出します。買い手ごとにKBFは違い、現場は使いやすさ、情報システムは連携とセキュリティ、決裁者は費用対効果と実績を見る。この重なりの中で、競合より良いと言える場所が位置取りです。
2. KBFの出し方:受注・失注の理由と、顧客企業の費用構造から
KBFは3つの材料から出します。
- 受注・失注の理由。受注した案件で決め手になった点、失注した案件で負けた点を、商談記録から集める。「価格」の一言で済ませず、価格の何が問題だったか(初期費用か、月額か、稟議の上限か)まで下ろす
- ICP企業のペルソナ。現場・情報システム・決裁者のそれぞれが、何を基準に選ぶか。セグメンテーションの記事で決めたICPの「抱えていた課題」がここに効く
- 顧客企業の費用構造。何にお金を使っている集団かは、公的データで分かる。販売・管理にお金を使う集団と、原価にお金を使う集団では、選ぶ基準が違う
実データで見る(東京都 × IT系業種 × 50人以上)
A案(インターネット附随サービス業+広告業)とB案(同+情報サービス業)の、商圏に本社を置く上場企業の費用構造です。
| EDINET連結・中央値 | A案:+広告業 | B案:+情報サービス業 | 読み取れる優先事項 |
|---|---|---|---|
| 販管費率 | 37.7% | 34.5% | A案は売上の4割近くを販売・管理に使う。集客と営業の効率がKBFになりやすい |
| 売上原価率 | 52.3% | 54.7% | B案は原価(人件費・外注費)が重い。案件の採算と工数管理がKBFになりやすい |
| 営業利益率 | 7.5% | 8.2% | どちらも薄利。費用対効果を数字で示せるかが稟議の分かれ目 |
数字は仮説の材料であって、KBFそのものではありません。A案なら「広告運用の効率」「導入から効果が出るまでの速さ」、B案なら「案件管理・工数管理との連携」「セキュリティ要件への対応」がKBFの候補になり、受注・失注の理由で裏を取ります。
ツールで確かめてみる A/B比較の「上場企業のコスト構造対比」に、原価率・販管費率・営業利益率の中央値と、販管費・原価の合計が出ます。
3. KBFに重みをつけ、自社と競合を採点する
出したKBFを5〜7個に絞り、セグメントにとっての重要度(重み)と、自社・競合の評価(5点満点)を表にします。重みは受注・失注の理由に出てきた回数、評価は顧客の声と競合調査で置きます。
| KBF | 重み | 自社 | 競合X | 競合Y |
|---|---|---|---|---|
| 広告運用の効率(例) | 5 | 4 | 3 | 5 |
| 効果が出るまでの速さ(例) | 4 | 5 | 2 | 3 |
| 既存ツールとの連携(例) | 3 | 3 | 5 | 2 |
| 初期費用(例) | 3 | 2 | 4 | 3 |
| 実績・事例(例) | 2 | 2 | 5 | 4 |
表の数字は形式を示す例です。重み × 評価の合計で競合と並べると、総合点より「どのKBFで勝ち、どのKBFで負けているか」が見えます。総合点で勝つ必要はありません。重みの大きいKBFで一つ、はっきり勝てる場所があれば位置取りは成立します。
4. ポジショニングマップを描く:軸は「重要で、差がつく」KBFを2つ
軸の選び方が定石の肝です。条件は2つ。顧客にとって重みが大きいこと。そして競合との差が大きいこと。重要でも全社が同じ水準なら(例:セキュリティ要件への対応)、軸にしても位置の差が出ません。上の表なら、重み5の「広告運用の効率」と、重み4で自社と競合Xの差が大きい「効果が出るまでの速さ」を軸にします。
| 効果が出るまでが遅い | 効果が出るまでが速い | |
|---|---|---|
| 運用の効率が高い | 競合Y(高機能だが導入に時間) | 自社が狙う位置(空いている) |
| 運用の効率が低い | 競合X(安いが手がかかる) | 小規模ツール群 |
右上が空いていれば、そこが位置取りです。空いていない場合は、軸を変えるか(別のKBFで差をつける)、空いている象限に製品を寄せるか(ロードマップの話になる)を選びます。マップは競合の位置が動けば変わるので、描いた日付を入れておきます。
5. セグメントごとに位置取りを変える:A案・B案・大口
同じ製品でも、A案とB案ではKBFの重みが違うので、位置取りも別に書きます。A案(広告業寄り)は運用の効率と速さ、B案(情報サービス業寄り)は案件管理との連携と採算の見える化、が軸の候補です。
もう一つ、ターゲティングの記事で見たとおり、上場企業の売上の大半は両案に入る大口(NTT・楽天グループ・LINEヤフーなど。重複26.9兆円、A案の88%)に集中しています。大口はセグメントの位置取りでは動きません。1社ごとに買い手(現場・情報システム・決裁者)を特定し、その会社のKBFで位置取りを書く、アカウント別のポジショニング(ABM)になります。
ツールで確かめてみる A/B比較の「上場企業の対比」に両案の上位8社が、単一表示の「個社一覧」に全社が出ます。大口の一覧はここから作れます。
6. ポジショニングステートメントに書く
位置取りは1文にします。定石の型は「(狙う顧客)にとって、(自社の製品)は、(カテゴリー)である。(競合)と違って、(差別化点)だからだ」。
A案の例:「東京都の広告業・インターネット附随サービス業で、50人以上の事業所の広告運用チームにとって、〇〇は、導入した月から運用効率を上げるツールである。競合Xと違って、既存の運用手順を変えずに1週間で効果が出るからだ」。
主語(誰に)がセグメントの条件と一致していること、差別化点がマップの軸と一致していることを確かめます。ずれていれば、S・T・Pのどこかが噛み合っていません。
7. STPを閉じる:3工程のつながりと見直し
題材の3工程は、こうつながりました。
- S:地域と規模を固定し、95業種を頭数・集積・伸び・カネで比べ、核(インターネット附随サービス業489件)に隣の業種を足したA案(755件)・B案(3,140件)を作った → [B2Bのセグメンテーション:公開時にリンク]
- T:市場規模を全国と比べ(カバレッジ59.1%・49.1%)、重複489件を除いたリスト3,406件を出し、営業キャパから「B案を足す」と決めた → [TAM・SAM・SOMの計算方法と実務(B2Bのターゲティング):公開時にリンク]
- P:費用構造からKBFの仮説を立て、受注・失注で裏を取り、A案・B案・大口で別々に位置取りを書いた
見直しは受注データからです。四半期分たまったら、失注理由でKBFの重みを更新し、マップを描き直す。重みが動かなければ位置取りは維持、動けばPから直す。SやTに戻るのは、市場規模や集積が動いたとき(統計の更新)です。全体の枠組みは[STP分析タグページ:公開時にリンク]にまとめています。
よくある失敗
- 自社の強みから位置取りを決める。KBFに無い強みは、顧客には差に見えない
- 軸に「重要だが差がつかないKBF」を選ぶ。全社が同じ位置に集まり、マップが役に立たない
- 全セグメントで同じ位置取り。A案とB案でKBFの重みが違うのに、1文で済ませる
- 一度描いて終わり。競合が動けばマップは変わる。日付と受注データで更新する
まとめ:ポジショニングの手順チェックリスト
- KBFを、受注・失注の理由、ペルソナ、顧客企業の費用構造から出した
- KBFに重みをつけ、自社と競合を採点し、勝てるKBFを一つ見つけた
- 「重要で、差がつく」KBFを2つ軸にして、ポジショニングマップを描いた
- A案・B案・大口で、別々に位置取りを書いた
- ポジショニングステートメントを1文にし、セグメントの条件・マップの軸と一致させた
- 受注データで見直す仕組みを決めた
数字について
顧客側の数字は、政府公式のオープンデータを条件固定で集計した一次情報です(生成日2026年9月5日、推計モデルなし)。費用構造=金融庁EDINETの有価証券報告書(連結、本社所在地で商圏に帰属、上場のみ。中央値は各社比率の中央値。損益計算書の構造が異なる金融業や費目非開示のIFRS採用企業は対象外)、事業所数=総務省「令和6年経済センサス‐基礎調査」。集計はTAM/SAMダッシュボード([URL:公開時に確定])、元データはe-StatとEDINET。KBFの採点表とマップの数字は形式を示す例で、実データではありません。引用時は条件と生成日を添えてください。
出典:総務省「令和6年経済センサス‐基礎調査」(e-Stat)を加工して作成/金融庁「EDINET」の有価証券報告書および「EDINETコードリスト」を加工して作成
