予算の根拠はどう説明する?決裁者が見る「なぜ今・なぜこの額・なぜこの施策」の組み立て方
coconecoLead Manager公開日: / 更新日:
目次
予算案の方向性を固める段階になると、決裁者に「この予算の根拠は?」と聞かれて、何を示せば納得してもらえるのか迷うことがあります。決裁者が知りたいのは、会社の目標に対して、この投資で何が変わるかです。
この記事では、決裁者のKPIに紐づけて「なぜ今・なぜこの額・なぜこの施策」に答える、予算の根拠の組み立て方を解説します。
- 決裁者が予算案を判断するときの基準と、相手のKPIへの紐づけ方
- 「なぜ今・なぜこの額・なぜこの施策」それぞれに使う根拠の使い分け
- 増額・新しい施策・データがないときなど、状況ごとの根拠の組み立て方と計算例
予算案全体の作り方は、マーケ予算案の作り方|来期の準備は何から?予算資料の8項目と作る順番 で解説しています。
予算の根拠は、決裁者のKPIに紐づけて3つの「なぜ」に答える
決裁者が予算案を判断する基準は、「会社の目標に対して、この投資でどれだけ近づくか」です。リード数やCVRといったマーケの指標のままでは、この基準で判断できません。根拠は、受注件数・売上・粗利など、決裁者が責任を持つKPIの言葉に置き換えて示します。
そのうえで、根拠は次の3つの問いに分けて組み立てます。
- なぜ今か:来期にやらないと、会社の目標に対して何が足りなくなるか
- なぜこの額か:その額が、目標から逆算して必要な額と合っているか
- なぜこの施策か:ほかの使い道より、この施策に使うほうが良いと言えるか
「予算の根拠」と言われると、額の計算だけを用意しがちです。ところが額の計算がどれほど正確でも、「来年でもよいのでは」「ほかに手はないのか」という疑問が残れば、決裁者は判断を保留します。3つの問いに、それぞれ別の根拠を当てるのが基本です。
決裁者が予算案を判断する基準:相手のKPIに紐づいているか
予算案に意見を出すのは、社長だけではありません。経理・財務や営業の責任者も、それぞれ自分のKPIを持っていて、その数字に照らして予算案を見ます。根拠は、相手が見ている数字の言葉で書くのが原則です。
| 相手 | 見ている数字(KPI) | 予算案で聞かれやすいこと | 根拠で先に示す数字 |
|---|---|---|---|
| 社長・役員 | 売上・受注・粗利の目標(KGI)、中期計画 | 「これで目標に届くのか」「やらないとどうなるのか」 | 増える受注件数と粗利、目標とのギャップ |
| 経理・財務 | 利益、予算の総額、キャッシュ | 「いつ回収できるのか」「費用はこれで全部か」 | 回収までの期間、費用の内訳と支払いの時期 |
| 営業の責任者 | 商談数、受注件数、営業の工数 | 「営業の手が回るのか」「受注につながる商談か」 | 増える商談数と、商談化率・受注率の前提 |
マーケの指標は、相手のKPIまでつなげてから出します。たとえば「リードを120件増やします」だけでは、社長にとって判断の材料になりません。「リード120件は、今期の商談化率と受注率で計算すると新規受注約7社分で、年間の粗利は約2,100万円です」と置き換えれば、会社の目標と比べられる数字になります。
「なぜ今・なぜこの額・なぜこの施策」に答える根拠の使い分け
3つの問いには、それぞれ使える根拠が複数あります。どれを主にするかは、自社にある数字と、決裁者が気にしている点で選びます。
| 問い | 使う根拠 | この根拠を主にする場面 | 示し方の例 |
|---|---|---|---|
| なぜ今 | 会社の目標とのギャップ | 会社の売上・受注目標が、今期より上がっている | 「今のペースでは、来期の新規受注が目標に6社足りません」 |
| なぜ今 | 先送りしたときの損失 | 商談から受注までの期間が長い、既存顧客との取引が減っている | 「上期に始めないと、受注までの期間を考えると期内に間に合いません」 |
| なぜ今 | 外部の期限 | 展示会の申込み、ツールの契約更新など、期限が決まっている | 「展示会の出展申込みは〇月までで、逃すと次は1年後です」 |
| なぜこの額 | 受注目標からの逆算 | 受注目標が決まっている(基本はこれ) | 「目標の受注件数から、必要なリード数と費用を逆算した額です」 |
| なぜこの額 | 自社の実績の単価 | 今期の施策ごとのCPAや、商談1件あたりの費用が取れている | 「リード1件あたり2.2万円は、今期の実績です」 |
| なぜこの額 | 見積もり | 制作費や外注費など、見積もりで金額が決まる | 「2社から見積もりを取り、内容をそろえて比べた額です」 |
| なぜこの額 | CACの上限 | 額が、決めた年数で取り返せる範囲かを確かめる | 「人件費を含めた受注1件あたりの費用は、上限の150万円以内です」 | 「同業の水準と比べても、売上に対して大きく外れていません」 |
| なぜこの施策 | 施策ごとの実績 | 施策ごとにリード・商談・受注を追えている | 「商談1件あたりの費用が、展示会より4割以上低い施策です」 |
| なぜこの施策 | 小さく試した結果 | 新しい施策を、今期に少額で試している | 「今期半年の試行で、止める基準のリード10件・商談1件を超えました」 |
| なぜこの施策 | ほかの選択肢との比較 | 営業の増員や別の施策など、代わりの手段がある | 「営業を1人増やすより、少ない費用で同じ受注を見込めます」 |
なぜ今:会社の目標とのギャップを、件数か金額で示す
「なぜ今」は、3つの中でいちばん抜けやすい問いです。予算案を作る側にとっては当たり前の前提なので、書かなくても伝わると思いがちです。決裁者から見ると、「来年でもよいのでは」「今のままでも回っているのでは」という疑問が残ります。今のペースを続けた場合の数字と、会社の目標との差を、件数か金額で示してください。
なぜこの額:受注目標から逆算し、単価は自社の実績を使う
額の根拠の中心は、受注目標からの逆算です。受注件数から受注率で商談数を、商談化率でリード数を出し、リード1件あたりの獲得費用をかけて積み上げます。
逆算の手順はKPI目標値の決め方|売上目標から商談数・リード数を逆算し、根拠を説明する方法 で解説しています。
逆算に使う転換率や単価は、自社の今期の実績から取るのが基本です。決裁者や経理に「その数字はどこから?」と聞かれても、自社の実績ならその場で答えられます。出した額は、人件費を含めた受注1件あたりの費用(CAC)が、1社あたりの年間粗利×取り返す年数の上限以内に収まるかで確かめます。
業種別の比率は、広告費の相場は売上の何%?代行手数料やコンサル費まで含めた、中小企業のマーケ予算の目安 で紹介しています。
なぜこの施策:施策ごとの実績と、選ばなかった選択肢を並べる
「なぜこの施策か」には、施策ごとの実績で答えます。リード数だけで比べると、商談につながらないリードが多い施策が良く見えてしまうため、比べるのは商談1件あたり、受注1件あたりの費用です。
新しい施策で実績がない場合は、ほかの選択肢と比べた理由を示します。営業の増員や既存の施策の増額など、同じ目標に届く別の手段と比べて、なぜこの施策を選んだのかを1〜2行で書いておきましょう。「ほかに手はないのか」と聞かれたときに、その場で答えられます。
状況ごとの予算の根拠の組み立て方:増額・新しい施策・データがないとき
同じ3つの問いでも、予算を増やすのか、新しい施策を始めるのかで、決裁者が気にする点は変わります。状況ごとに、根拠のどこを厚くするかを決めてください。
| 状況 | 決裁者が気にすること | 根拠を厚くするところ | 足りないときの補い方 |
|---|---|---|---|
| 前年と同じ額・同じ施策で続ける | 今期の予算が成果につながったか | 今期の予実と、施策ごとの受注への貢献 | 施策ごとの成果が取れていなければ、来期に取れるようにする計画を添える |
| 増額を申請する | 増やした分で何が増えるか | 増額分だけを取り出した3つの「なぜ」と、回収の見込み | 増額分を段階に分け、成果を見て追加する形にする |
| 新しい施策を始める | うまくいかなかったとき、いくら失うか | ほかの選択肢との比較と、小さく試す額 | 止める基準と、判断する時期を決めておく |
| 自社に実績のデータがない | 数字の出どころは確かか | 出典と定義がはっきりした数字を仮に置く | 仮の数字であることと、自社の実績に置き換える時期を明記する |
増額を申請するときは、増やした分に絞って3つの「なぜ」を説明します。前年と同じ部分は今期の予実で説明がつくので、決裁者が判断したいのは増えた分です。
マクロミル/ProFuture「2026年度 BtoBマーケティング予算・施策に関する実態調査」(BtoBマーケティング関連業務に従事する会社員103名、2026年2月実施)では、BtoBマーケティング予算を「変わらない」が48.5%、「やや増やす」が32.0%、「大幅に増やす」が2.9%でした。維持以上は合わせて83.4%で、増やすとした回答は約3分の1です。
<!-- TODO(E-08公開後に入れる):今期の予実のまとめ方は、【E-08:予実管理のやり方】で解説しています。 --> <!-- TODO(E-05公開後に入れる):新しい施策の止める基準と、小さく始める進め方は、【E-05:撤退基準とシナリオの立て方】で解説しています。 -→
計算例:増額360万円の根拠を、3つの「なぜ」で1枚にまとめる
ここでは、次の架空の会社で考えます(数値は説明のための例です)。
- 会社:製造業(産業機械向けの部品メーカー)、従業員100名、売上15億円
- 新規受注:今期はマーケ施策経由で11社。会社の目標(新規63社)から、紹介・既存顧客(26社)と営業の開拓(20社)を引くと、来期はマーケ施策経由で17社が必要
- 今期の実績:商談化率13%、受注率27%、問い合わせから受注まで平均4か月、新規顧客1社あたりの年間粗利100万円
- 施策ごとの実績:自社サイト(記事・事例・ホワイトペーパー)はリード1件2.2万円・商談化率14%・受注率30%・商談1件あたり15.6万円、展示会は商談1件あたり28万円
| 問い | 根拠 | 数字 |
|---|---|---|
| なぜ今 | 会社の目標とのギャップ | 今のペースではマーケ施策経由の新規受注は11社で、来期に必要な17社に6社足りない |
| なぜ今 | 先送りしたときの損失 | 受注まで平均4か月かかるため、12月以降に始めると期内の受注に間に合わない |
| なぜこの額 | 受注目標からの逆算 | 6社 ÷ 受注率27% = 商談23件、23件 ÷ 商談化率13% = リード177件(いずれも切り上げ) |
| なぜこの額 | 自社の実績の単価 | リード1件2.2万円(自社サイトの今期実績)× 177件 = 約390万円 |
| なぜこの施策 | 施策ごとの実績 | 商談1件あたりの費用が15.6万円で、展示会(28万円)より4割以上低い |
| なぜこの施策 | ほかの選択肢との比較 | 営業を1人増やすと年600万円前後の人件費がかかり、商談の元になるリードは増えない |
| 回収の見込み | 増やす費用と増える粗利 | 増やす費用は、外部に払う費用390万円と人件費の増分21万円の合わせて411万円。177件 × 商談化率14% × 受注率30% = 約7社で、1社あたり59万円。上限150万円以内で、約7か月で取り返せる。増える粗利は年約700万円 |
逆算は全体の平均の率で出し、見込みは配分先の実績の率で出しているため、目標の6社に対して少し余裕のある計画です。
代理店や支援会社に提案を頼む前に、自社で決めておくこと
予算の根拠づくりを、代理店や支援会社の提案に頼るケースもあります。提案書の数字は、表示回数やCPAなど広告運用の指標が中心で、決裁者のKPIまでつながっていないことが少なくありません。提案を頼む前に、次の4つを自社で決めておくと、提案の数字を自社の根拠に組み込めます。
- 会社の目標のうち、マーケが担う数字(新規受注の件数や粗利)
- 逆算に使う商談化率・受注率と、リード1件あたりの単価(今期の自社の実績)
- 予算に含める費用の範囲(経理・財務と揃えた勘定科目と、人件費の出し方)
- 成果を判断する指標と、止める基準
私は、予算の根拠に使う数字は、経理・財務の担当者と定義を揃えたうえで、自社の実績から取るのがいちばん確実だと考えています。外部の数字は、その確認に使う程度で十分です。
経営陣に説明するときの一文
- 「来期の増額は、外部に払う費用390万円と人件費21万円の合わせて411万円です。マーケ施策経由の新規受注が会社の目標に6社足りない分を埋めるための額で、約7社・年間の粗利約700万円を見込み、約7か月で取り返せます。」
- 「増やす先は、商談1件あたりの費用が展示会より4割以上低い、自社サイトの記事・事例・ホワイトペーパーです。3か月ごとに商談数を報告し、想定を下回れば配分を見直します。」
まとめ
- 決裁者が予算案を判断する基準は、会社の目標に対して、この投資でどれだけ近づくか。根拠は受注件数・売上・粗利など、相手のKPIの言葉で示す。
- 根拠は「なぜ今・なぜこの額・なぜこの施策」の3つに分け、それぞれ別の根拠を当てる。
- 額の根拠は、受注目標からの逆算と自社の実績の単価。人件費を含めたCACが上限以内かで、額を確かめる。
- 増額は増やした分に絞って説明し、新しい施策は止める基準とあわせて示す。データがなければ、出典のはっきりした数字を仮に置き、置き換える時期を書く。
予算案全体の作り方は、【E-00:マーケ予算案の作り方】で解説しています。
よくある質問
Q1.予算の根拠として、決裁者に最低限示すべきものは何ですか?
A1.「なぜ今・なぜこの額・なぜこの施策」の3つへの答えです。額の計算だけでは、来年でもよいのではないか、ほかの使い道はないのかという疑問が残ります。3つそれぞれを、受注件数や粗利など決裁者のKPIの言葉で示してください。
Q2.予算の根拠に、同業他社の広告費の比率を使ってもよいですか?
A2.額の根拠に使うのはおすすめしません。比率は業種全体でならした数字で、自社の目標や、かけた費用を取り返せるかとは直接つながらないためです。額は受注目標からの逆算で出し、人件費を含めた受注1件あたりの費用が、1社あたりの年間粗利×取り返す年数の上限以内かで確かめます。
Q3.過去のデータがなく、予算の根拠を示せません。どうすればよいですか?
A3.公的統計のように出典と定義がはっきりした数字を仮に置き、仮であることを予算案に明記します。何か月後に自社の実績に置き換えるかも、あわせて書いておくのがポイントです。新しい施策なら、小さく試す額と止める基準を示すと、決裁者が判断しやすくなります。
Q4.予算の根拠は、稟議書のどこに書けばよいですか?
A4.冒頭のサマリーに必要額・目的・見込む成果を書き、本文で「なぜ今・なぜこの額・なぜこの施策」を順に示します。計算の前提(商談化率や単価)は本文か別紙に残しておくと、期中に実績とずれたときに見直せます。<!-- TODO(E-06公開後に入れる):稟議書の書き方と例文は、【E-06:稟議書の書き方と例文】で解説しています。 -->
Q5.社長と経理で、予算案への質問が違います。根拠を分けて用意すべきですか?
A5.根拠そのものは1つにして、見せる順番を相手のKPIに合わせます。社長には増える受注件数と粗利、経理・財務には回収までの期間と費用の内訳を先に示してください。数字の出どころを揃えておけば、相手ごとに説明が食い違うこともありません。
